やさしいビタミンCの知識

植物でのビタミンCの酸化・還元系

植物は,どうしてビタミンCをたくさん含んでいるの?」の項でも触れましたが,光合成を行う藻類を含めた植物はビタミンC(還元型アスコルビン酸;AsA)を使って活性酸素種のひとつ過酸化水素を特異的に還元して無毒化する独自の酵素(アスコルビン酸ペルオキシダーゼ;APX)を持っています.この酵素反応の結果,AsAは一電子酸化されてモノデヒドロアスコルビン酸(MDA)へ,さらにもう一電子酸化されてデヒドロアスコルビン酸(DHA)へと順次酸化されます(図1).

植物はAPXの他にもアスコルビン酸酸化酵素を独自に持っており,やはりAsAを順次酸化型にしています.さらにAsA自体も直接活性酸素種と反応して酸化されますし,AsAは酸化されたグルタチオンやトコフェロールなど他の抗酸化物質を元の還元型に戻す際にも作用して,それ自身は酸化型になります.このように植物は酸化型のMDAやDHAを生成する機会が非常に多いのですが,これらを効率的に再還元するシステムとして “アスコルビン酸-グルタチオン回路” と呼ばれる酸化・還元系を発達させています.アスコルビン酸-グルタチオン回路は,図1に示すように,補酵素NADPHを電子供与体としてMDAをAsAに再還元するモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素(MDAR),還元型グルタチオン(GSH)を電子供与体としてDHAをAsAに再還元するデヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR),そしてDHARによって酸化されたGSH(GSSG)をGSHに再還元するグルタチオン還元酵素(GR)で構成されています.この回路の構成酵素のうち,特にMDARとDHARは,同じ活性を示す動物の酵素とは構造の異なった植物独自の酵素になります(「動物でのビタミンCの酸化・還元系」をご覧ください).さらに植物はアスコルビン酸-グルタチオン回路の各酵素(アイソザイム)を,葉緑体,ミトコンドリア,細胞質といった細胞内のコンパートメント毎に備えています.このように植物はアスコルビン酸-グルタチオン回路をがっちり機能させることで,AsAを有効利用して効率的に活性酸素種を消去することができます.


[石川 孝博]