やさしいビタミンCの知識

ビタミンC不足と肺の生活習慣病である慢性閉塞性肺疾患(COPD)の関係

近年,高齢期に発症しやすい肺の重篤な病気として慢性閉塞性肺疾患(COPD)が大きな社会問題になっています.COPDは肺に通じる空気の通り道である気道や酸素と二酸化炭素のガス交換を行う肺実質(肺胞の内側)の慢性的炎症の結果として可逆性の乏しい(治りにくい)気流閉塞を生じる慢性呼吸器疾患です.COPD患者の多くが慢性的な喫煙習慣を伴うため,以前よりCOPDの発症には喫煙による肺での酸化ストレスの増加が指摘されていました.マウスは私たち人間とは異なりからだの中で十分な量のビタミンCを作り出すことができます.私たち人間と同じようにビタミンCを作れないマウスを用いた研究から,ビタミンCの不足状態は喫煙によるCOPDの発症リスクを高めることがわかってきました.ビタミンC不足状態で喫煙すると,COPDの主要な病理変化である肺気腫,すなわち肺胞の破壊による気腔の拡大が生じました.また,予めビタミンCを十分に摂ってから喫煙するとCOPDの発症リスクを下げられることもわかってきました.さらに,ビタミンCには壊れた肺を再生する能力があることも少しづつわかってきました.マウスを用いた研究がそのまま人間にあてはまるかは難しい問題です.日本人のCOPD患者さんの多くは血液中のビタミンC濃度が健康な人に比べて低いことも報告されています.COPDを発症しないようにするためには喫煙の前後にビタミンCを十分に摂取することが望ましいです.

[石神 昭人]