食品に含まれる鉄はヘム鉄(2価鉄)と非ヘム鉄(3価鉄)の2種類に分類されます.少し難しくなりますが,ヘムとは2価の鉄原子とポルフィリン*から成る錯体です.ヘム鉄は主に肉類に多く含まれる鉄であり腸管からの吸収率は23~28%と比較的高いです.それに比べて,非ヘム鉄は野菜,穀類,卵,乳製品など多く含まれる鉄であり腸管からの吸収率はわずか数%ときわめて低いです.あまり知られていませんが,私たちの食事に占める鉄の90%以上は吸収されにくい非ヘム鉄なのです.以前より鉄の吸収にビタミンCが促進的に作用することが知られていました.じつは,ビタミンCには,腸管吸収率の低い非ヘム鉄(3価鉄)を腸管からの吸収率の高いヘム鉄(2価鉄)に還元する働きがあるのです.近年,小腸からの鉄の吸収を行う輸送体(DMT1, Slc11A2)が同定されました.この輸送体は十二指腸の上皮細胞の管腔側に存在しており,2価鉄を細胞内に輸送します.3価鉄に比べて2価鉄の吸収がよいのは,この輸送体の特性によるためです.一般に鉄欠乏性貧血の治療に経口の鉄剤が処方されます.この時,ビタミンCも一緒に処方される場合があります.その理由は鉄剤の吸収を高めるためです.
* ポルフィリンとは,ピロールが4つ組み合わさってできた環状構造をもつ有機化合物です.
[石神 昭人]