人類は昔から“壊血病”注1という,とても恐ろしい病気に悩まされてきました.これは,人類最古の病とも言われ,古代ギリシャ時代にもその記録が残されています.特に,壊血病により多数の犠牲者が出たのは,中世に度々繰り返された十字軍遠征に始まり,20世紀初頭の日露戦争,第一次世界大戦に至るまでの,数多くの大規模な戦争です.何年も続く戦争の間,十分な食料補給ができず,特に新鮮な野菜・果物等の不足で多数の兵士が壊血病になり,その死亡者数は実際の戦闘での戦死者数をはるかに上回る膨大な数に上りました.このような状況から,その当時から壊血病に対する解決策が社会的に非常に強く求められていました.
大規模な戦争以外では,15世紀からのヴァス・コ・ダガマ,コロンブス,マゼランらが活躍した大航海時代にも,航海中に新鮮な野菜・果実などが十分に得られず,多くの船員が壊血病の犠牲になったことが航海日誌などに記録されています.この海上での壊血病対策については,世界中に多数の植民地を抱えた英国海軍が永年にわたり取り組み,18世紀半ばの航海中に英国海軍・軍医のジェイムズ・リンドが実施した実験結果から,「オレンジとレモンが最も効果的な治療薬である」との結論が出されました.しかし,この正しい結論は,その後の戦争などにおける壊血病の予防・治療には,残念ながら十分に活かされませんでした.その最大の理由は,当時,この病気の原因が「何であるのか」解明できなかったためです.当時は,汚れた空気とか,タンパク質欠乏とか,様々な原因が確証も無く提唱され,結局のところ,感染説,中毒説,食事欠陥説のいずれかであろう注2ということになりましたが,それ以上,何らの進展も無いまま18~19世紀は過ぎ去り20世紀を迎えることになります.
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注1 壊血病,特に,その初期~末期に至る症状,等々については「どのくらいのレベルからビタミンC欠乏症がでるの?」をご参照下さい.
注2 結局,壊血病の原因としては「食事欠陥説」が妥当だったのです.
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参考文献:
「壊血病とビタミンCの歴史」*,その他.
*北海道大学図書刊行会(1998年)
著者:ケニスJ. カーペンター(訳者:北村二朗,川上倫子)
[倉田 忠男]