やさしいビタミンCの知識

体内でのビタミンCとビタミンEの相互作用をどのようにして調べたか?

ビタミンEをリサイクルするビタミンC」の記事で,ビタミンE(以下Eと略)がラジカルに水素を提供してEラジカルに変わると,そのEラジカルにビタミンC(以下Cと略)が水素原子を提供して還元型のEを再生することが述べられています.図に示されるように,Cは水溶性ですがEは脂溶性(油に溶けるが水に溶けない)です.

水に溶けない有機溶媒,例えばベンゼンにEを溶かして,試験管に入れ,Cを溶かした水溶液と混ぜると,ベンゼン溶液は水溶液の上に浮かびます.この状態でEを酸化してラジカルにしても水溶液中のCとは混じらずEの再生は極めて遅いのです.EラジカルとCが違う場所にいて出会えないためです.反応する分子が出会わないと化学反応は起こりません.試験管に蓋をして思い切り上下に振って無理やり混合させると瞬間的にEの再生が起こります.

細胞内でも「油=脂質」が主成分の細胞膜にあるEと水溶液にあるCは簡単に接触できません.では,動物体内で実際にEの再生反応が起こるのでしょうか?ヒトと同様,Cを作れないODSラットというネズミを使った動物実験の一例を紹介します.

動物実験では,動物をいくつかのグループ(群)にわけ,その群間の比較から仮説を証明します.ODSラットを4群(①CもEも必要量与えた対照群,②C欠乏群,③E欠乏群,④CとE両方欠乏群)に分け,多くの臓器のCとEの変化を測定します.

例えば,この条件で飼育21日後の肝臓のEの濃度は,対照群では当然,初日と同じで一定です.E欠乏群では当然,0近くになります.面白いのはC欠乏群のEの濃度が対照群より有意に減少することです.もしCとEに相互作用がなければCを欠乏させてもEには影響しないはずです.他の臓器でも同様の結果が得られ,C欠乏ではEの消費が亢進する,即ち,CによるEの再生が動物体内でも起こることが分かりました.

一方,肝臓のCの濃度は,E欠乏では対照群より有意に減少します.即ち,E欠乏はCの減少=酸化を促進する,つまり,EはCの酸化を抑制しました.これが興味深い点です.何故かというと,CがEラジカルを還元する化学反応は自然に起こりますので,動物の体内で起こることも自然です.しかし,Eが酸化型のCを再生(還元)する化学反応は起こりません.化学的にできないことは動物体内でも起こりません.

では何故,動物体内ではEがCを再生するように見えるのでしょうか?E欠乏になると細胞膜内で酸化ストレスが亢進し,それが水溶液に波及する結果,水溶性抗酸化剤のCが減少するためと考えられます.つまり,試験管内の化学反応から予想されるCによるEの再生だけでなく,体内ではEもCを助けること,つまり体内ではCとEが相互に助け合うことが分かりました.

なお,詳細は下記の古い文献,もしくは解説が日本ビタミン学会の「ビタミン」誌に掲載されています.


Interactions between vitamin C and vitamin E are observed in tissues of inherently scorbutic rats. K. Tanaka, T. Hashimoto, S. Tokumaru, H. Iguchi, and S. Kojo, J. Nutr., 127, 2060-2064 (1997).
DOI 10.1093/jn/127.10.2060

ビタミンCとビタミンEの相互作用は遺伝的にビタミンCを合成できないラットの組織で観察できる.田中恭子,橋本朋子,得丸定子,井口弘,小城勝相,ビタミン,72,443-444 (1998).
DOI https://doi.org/10.20632/vso.72.9_443


[小城 勝相]