やさしいビタミンCの知識

血管,皮膚,筋肉はなぜ硬くてしっかりしているの? ―コラーゲン合成とビタミンCの関係―

臓器が一定の形を保つことができるのは,臓器の働きを担う細胞の間に結合組織が存在するからです.結合組織にはコラーゲンと呼ばれる線維たんぱく質があって,臓器に支持強度を与えています.これが,血管,皮膚,筋肉が硬くてしっかりしている理由です.

多くの種類のコラーゲンが知られており,骨や皮膚に存在するコラーゲンはI型,血管のコラーゲンはIII型と分類されます.コラーゲンを作るポリペプチド鎖注1の種類によって型が決まります.I型を例にしてその構造を説明しましょう.3本のポリペプチド鎖が互いに巻き付いて作られた細長い3重鎖が基本構造です(図1上).この3重鎖の分子はトロポコラーゲンと呼ばれ,サイズが長さ300 nm,直径1.5 nm (1 nmは10-9m)です.トロポコラーゲンは規則正しく67 nmの間隔でずれて集合し,コラーゲン原線維(長さ:数十μm,直径:10〜300 nm)を作ります(図1下).コラーゲン原線維はさらに寄り集まって,光学顕微鏡でも観ることができるコラーゲン線維(膠原線維)(直径:数μm)を形成します.

コラーゲンの構造を知ったところで,支持能力との関係を見てみます.コラーゲンを構成するポリペプチド鎖には,グリシンが3残基注2ごとに存在するという特徴があります.グリシン残基は,側鎖が水素原子のためサイズが小さく,3本のポリペプチド鎖が3重鎖になるときに,内部にうまく収まることができるのです.これによって3本の鎖をより合わせることが可能になります.また,コラーゲン原線維を形成するトロポコラーゲンは隣のトロポコラーゲンとの間に化学結合によって架橋され(図1下),コラーゲン原線維は強固となります.

ところで,ビタミンC はコラーゲンとどのように関係するのでしょうか.コラーゲンを構成するポリペプチド鎖には,ヒドロキシプロリン残基が多数存在します.この残基の役割は,トロポコラーゲンの3重鎖の構造を水素結合によって強固にすることです.この残基は,体内で合成されたばかりのポリペプチド鎖ではプロリン残基であったものに,後から酵素の反応によって水酸基が結合してできたものです.実はこのとき働く酵素には補因子注3としてビタミンCが必須です.ヒトはこのビタミンCを合成できないので,ビタミンC欠乏によってプロリン残基への水酸基の結合が妨げられ,コラーゲンが正常に作られなくなります.その結果,血管壁が脆弱になって出血しやすくなるとか,骨が折れやすくなるといった壊血病の症状が現れます.


注1 アミノ酸が数珠つなぎになってできた分子をポリペプチド鎖と呼びます.皮膚や骨のコラーゲンの場合は,約1,000個のアミノ酸からなります.

注2 ポリペプチド鎖に組み込まれているアミノ酸を指すときアミノ酸残基と呼びます.

注3 プロリン残基への水酸基の導入を司る酵素はプロリル水酸化酵素です.この酵素には鉄イオンが触媒部位に存在し,2価鉄の状態で触媒機能を発揮します.この鉄イオンを2価鉄の状態に保つのがビタミンCの補因子としての役割です.

(図1下は、B. Alberts et al. "Molecular Biology of the Cell 3rd Ed.,"
(Garland Scence,1994)にある図をベースに描いた。)

[錦見 盛光]